病室はとても暑くて、Tシャツ一枚になりたくなるくらいだったけれど、朝方僅かに仮眠をとって起きるとさすがに身体は冷えていた。眠るどころか、吸引や体位を変えたりつぎつぎと言われるので、休む暇のないくらいだと、そう聞いてきたので、覚悟していたのだけれど、彼は12時を過ぎるとすぐに呼吸する音が大きくなって眠ってしまったようだった。それから、1時間ごとに吸引したり身体やマスクを少し動かしたりしただけで、朝方になるとそれもなくなり完全に深い睡眠に入っていた。それは、体調を崩す前の彼の懐かしい眠りのパターンだと思った。
夜が明け、おかゆと刻み食の朝食を済ませると、看護師が点滴を取り替えに来たり、医師がエコーを取りに来たりと慌ただしくなり、9時半頃お母さんも見える。そのどのタイミングだったか、食事の後くらいか、ふと時間が空いた瞬間に、カメラを取り出して、病室の窓から建物の中側に当たる方向を何枚か撮ってみる。「見せてぇ、ぼくどうなってるのかわからへんねん」。たしかそう言ったと思う。そしてこれではなく、もっと風景がはっきりと写ったものを見せたと思う。これは曇って見えるけれど、今日はとてもいい天気なんだ、そう心の中では言ったのだけれど、なぜか口には出さなかった。そしておそらくこれは彼が最後に見る外の風景だ。お母さんが眠れたか?と尋ねて、あんまりって答えていたので、「爆睡しているのに何言ってんねん」とつっこんだ。そして甘えてるんじゃない?って茶化した。それからしばらく彼の様子について話してお母さんに挨拶して帰った。これが最後の朝だった。
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