Thursday, May 22, 2008

闘争の最小回路

ラテンアメリカ関係のメーリングリストに著者のトークショーの案内があって、なにげに検索していると、この本を見つけた。『闘争の最小回路』。南米の政治空間に学ぶ変革のレッスン、という副題が付いている。
現在のラテンアメリカは、10年前とは別の大陸のようで、ほぼすべての国で左派が政権を取った。通貨危機があり、国がぽしゃってしまったような状態から立ち直っていく様子は、現地のニュースをWebでチェックしてだいたい把握していたつもりだったけれど、その足下で、国民一人一人が作り上げる様々な「運動」があることは、向こうのメディアを表面的にチェックするだけではなかなか知ることはできないし、じっさいぼくもほとんど知らなかった。最近やっとNHKなどでもドキュメンタリーで取りあげられてかいつまんでは知れるようになったけれど、それ以外は相変わらずだと思う。
この本は、そうした日本での情報の不足のかなりの部分を埋めてくれるものだと思う(出版社の案内)。大ざっぱに言って、南米は、80年代の軍事政権下やその後の民政移行した政権で、合衆国主導の新自由主義的な政策を取るようになる。政府による開発事業は、どんどん国内外の資本に売り渡され、極端な貧富の差が生まれる。ちょうど現在の日本と同じ状況だ。根絶やしにされた民衆は、自分たちでなんとかするしかないような状況に置かれ、持っているものがほとんどなくなった民衆からさらに奪い取ろうとする資本に対する抗議行動も起こった。民衆の判断は、もうどの政権を選ぶかではなく、政治自体を拒否するというものだった。各地に小さな自治組織が生まれ、それは国から何かを受動的に受け取る存在ではなく、自分たちの力で創造的に物事をアレンジして生みだす能動的なものだと著者は評価している(表象代理の拒否や受動→能動といった枠組みはドゥルーズからのものだ)。
現在起こっていることは、それが日本でもかろうじて知ることができるものなのだけれど、その運動の成果を左派の進歩的な政権が吸収しながら国家へ回収している課程だとして、全部を否定するわけではないけれど、いくらかの危機感を留意させながら、運動と国家の関係を細かく分析している。

興味深かったのは、自分が障害者運動に関わっているので、自分たちがやっていることとの比較をしながら読むからなのと、今の日本が、やはり南米と同じように、どっちの政権を選んでも同じような、ほとんど政治が麻痺してしまった状況に置かれてしまっていて、そんな状況で何ができるか?とか何をしたらいいか?などと考えるきっかけになるからだったと思う。

2003年の支援費制度以前の障害者運動は、まさに「闘争の最小回路」だったと思う。ほとんどの団体は任意団体だったし、生存の実体を作ってから、後から制度ができてくるという状態が何年もつづいた。支援費になって、障害者はほぼ24時間の介助が受けられるようになったし、ぼくらが食えているのもそのおかげといえばそう。しかし、しっかり制度に縛られたような感覚がないわけでもない。今は運動の最前線はロビーイングだから、末端の障害者は何をやっているかもわからず、デモの時だけ人数に加えられる。運動の創造性は著しく減少してしまっているというのは否定しがたいと思う。

ぼくも末端の介助者だから、その末端の障害者と日々向かい合っている。そこが生き生きとしていなかったら、何のための運動で何のための交渉なのか?って思わないこともない。それで、だからその「闘争の最小回路」をなんとか作動させられないか?って考えたりする。それはたぶん実体のない「地域」という言葉に実体を与えるものなんだとも思う。

2 comments:

Anonymous said...

すてきな文章ですね。

末端障害者と末端労働者が生き生きとしてなかったら…

闘争の最小回路はぼくも読みましたが、どうも遠い世界の話のように思えてしまってました。いのうえさんの読みはすてきでした。

ちなみに、廣瀬純さんは、以下のようなイベントにも出ます。

http://d.hatena.ne.jp/posada/

実行委員には、けっこうJCILの介助者がいたりする。。。

Takeshi Inoue said...

ありがとうございます。

最初は、南米情報を仕入れるつもりで読み始めたんですが、アルゼンチンの状況を触れたところにかかると、目の前に起こっていることのようにしか見えなくなりました(笑)。

作業所で、人集めに毎週映画の上映会をやってるんですが、それもベネズエラのシネクラブ運動~地域放送局という流れに重ねると面白かったです。色々アイデアを与えてくれます。

廣瀬さん、なんか繋がってるんじゃないかなぁ~って思ってましたけれど、やっぱりですね。土日が仕事っていうのは色々楽しそうなイベントに行けなくてつらいです。