Saturday, May 12, 2007

『わたしたちに許された特別な時間の終わり』

最近はほんとうに小説を読むなんていうのはほとんどなくなってしまったのだけれど、朝日新聞に、斎藤美奈子が書評を書いていたのが興味をひいて、岡田利規の『わたしたちに許された特別な時間の終わり』をちょっと買って読んでみた。著者のことは知らなかったのだけれど、チェルフィッチュというソロ・ユニットで演劇をやっている人で、収録されている「三月の5日間」は、岸田國士戯曲賞を受賞した戯曲をノベライズしたもの。
それでも、ぼくは小説を読みたかったのだけれど、小説を読もうとしたのではなく、「若手の演劇人が虎視眈々(こしたんたん)といい小説を書いてるんだよねという印象を私は最近もっている。宮沢章夫や松尾スズキがそうであったように、前田司郎も本谷有希子も、戯曲と小説、両方の賞に名前があがる。彼らの特徴は「彼はそのとき思った」式の、これが小説でござい、な書き方とは少しズレていることかな。」ここにある、「少しズレ」た感覚を味わいたかったからだと思う。
それで、それは充分に味わえたと思う。
収録された、2編の短編は、大部分を登場人物の独白で物語が語られ、それはそのまま、現代の若い人たちを描く風俗小説ともなっている。だらだらと独白がつづき、それが妙に微視的な視点にそのまま繋がるのがリアル。後半の「わたしの場所の複数」は、フリーターの夫婦のなんとも浮かび上がれない日常を描いたものだけれど、なぜか樋口一葉の小説の文章の連なりと、彼女の小説の登場人物の貧乏とを思い出していた。
何か色んなことをぼくらはやり直しているんじゃないかという感覚。もう一度の明治と、小説のやり直し、のような。

No comments: