Monday, September 1, 2008

中井久夫『臨床瑣談』

あと何冊中井久夫先生の著書を読めるのだろう。すでに70台も半ばになり、大病もしている。それでも出版のペースが落ちないのは、彼自身がそれを感じてできるだけ今のうちに書き残しておきたいと考えているからのようにも見える。ぼくが最も敬愛するエッセイストだ。
先月出版されたこの『臨床瑣談』は、いつもとちがって専門の精神医学から離れて、医師として、そして患者として関わった現実の臨床での、本当にすぐに役に立ちそうな実践のいくつかが書かれている。

それほど長くない6編を収めたエッセイではあるけれど、ぼくたちがふだん忘れてしまいそうなことに細かく注意を促してくれている。精神科に来る患者に、どれだけの身体的な不調が隠されているか。専門化しすぎていたり、データに埋もれてしまっているなかから、いかに本質的なものを見つけ出していくか。細菌学者から精神科医になった経歴から、様々な経験を幅広く生かしていく方法などなど。

中井先生自身は、自分の立場を「リアリズム」であるとこの本のどこかに書いてあったが、リアリズムとは、この世界への信頼であり、「愛」なのだと思う。それを取り戻さなくてはならない、と絞り出すように語ったドゥルーズのシネマの一節を思い出す。

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