先週宮脇書店をぶらついていたら、新しく河出書房新社から刊行が始まった、世界文学全集の第一回配本『オン・ザ・ロード』が並んでた。パラパラってめくっていくと、文章が生き生きしていてすぐに引き込まれた。青山南による新訳。もちろん買って帰った。
そもそも、20年前にぼくがアメリカを旅したいと思ったのは、当時『路上』というタイトルで同じく河出の文庫で出ていたこのケルアック小説や、同じビートニックの小説家たちに影響を受けていたからだった。ヒッチハイクやグレイハウンドでに大陸の移動、アルコールやドラッグ、あらゆる手段を使って「ハイ」になることを追求する方法、と破滅寸前の生き方etc..。デンバーは重要な登場人物ディーン・モリアーティの出身地で、ヒッチハイクをするシーンが何度も出てくるのだけれど、実際行くとそのときも目の前でヒッチハイクして見知らぬ人の車に乗っていく人が少なくないのに驚いたりした。メキシコシティも、重要な場所として登場し、ぼくもそれにならって国境を越えた。ぼくの人生は基本的に今でもこの「道」に沿って進んでいる。やはり当時読んだバロウズとギンズバーグの『麻薬書簡』も山形浩生の新訳で再版されていて、日本語が古くなるくらいの時間が経ってしまったのだと、また違った感慨も催してしまう。
さて、ダラスで一泊して一日美術館などで時間をつぶし、夕方グレイハウンドのバスターミナルからエル・パソへ向かった。前日の夜に念のためチケットを買いに行っておいたのだが、もうそこはほぼスペイン語で事が足りる世界で、すでにもういくらかはメキシコへ足を踏み入れているのだと思い嬉しくなった。そういえばグレイハウンドは、ラティーノたちへのサービスに重点をおくようにするといった意味のポスターが柱に貼ってあったりもしていた。
ロサンジェルス行きのバスは、一台では足りず、あと一台か二台増発していたと思う。列の前に並んでいたのは、黒人の若いお母さんで、サンディエゴへ行くと言ってた。ぼくに荷物を見ておいてほしいと頼み、小さい子供にあまり身体によくなさそうなフライドポテトを与えて食べさせていた。
エル・パソまで、12時間の行程で、隣に座っていたのはフレッドという名の白人の初老の男で、サンフランシスコのまだ北にあるバレホという町に行くという。ウェスト・バージニアから乗ってきたらしく、すでに72時間もバスに揺られているんだと言った。ギターを持っていて、グレイハウンドの職員がそれを粗末に扱うと言って怒っている。「ミュージシャンか?」と訊こうかと思ったけれど、妙に話が長くなっても面倒だなと思いやめた。彼は、夜遅くまで手元のライトを点けて数独にチャレンジして、時折ぼくに、このライトは迷惑じゃないかと言って訊いてくる。ぼくはその都度大丈夫だよと応える。
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